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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)10060号 判決

原告

伊藤道夫

被告

嶋藤縫製工業株式会社

主文

1  被告は原告に対し金一四〇二万四四五一円、及び内金一三一二万四四五一円に対する昭和五〇年二月二七日から、内金九〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四八二五万六六四〇円及び内金四六二五万六六四〇円に対する昭和五〇年二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、内金二〇〇万円に対しては本判決確定の日の翌日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生(以下、本件交通事故という。)

(一) 日時 昭和五〇年二月二六日午前一一時一五分ころ。

(二) 場所 千葉県旭市江ケ崎六六一番地、嚶鳴農業協同組合支所前路上

(三) 被害車 普通貨物自動車(千葉四四ひ六七六二、以下、原告車という。)

右運転者 原告

(四) 加害車 普通乗用自動車(千葉五五ら六五六八、以下、被告車という。)

右運転者 訴外伊東佐右衛門

(五) 態様 前記日時場所で原告車が加害車走行路へ進入するため同路左隅(被告車にとつて)へ原告車前部がかかる状態で一時停止をしていたところへ、右方(原告車にとつて)から走行してきた被告車が原告車に衝突した。

(六) 結果 脳挫傷・右肋骨骨折(Ⅱ・Ⅴ・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ・Ⅹ・ⅩⅠ)・外傷性気胸及び正常脳圧水頭症の傷害。

2  責任原因

(一) 被告は、被告車を所有し、被用者である訴外伊東佐右衛門(以下、訴外伊東という。)をして自己の業務のために被告車を運転させて自己のために運行の用に供していた者であるから、後記3、(一)ないし(七)のいわゆる人的損害について自動車損害賠償保障法三条本文による賠償責任がある。

(二) 訴外伊東は被告車を時速約四〇キロメートルで小見川方面から旭市内方面に向け本件事故現場を運転していたものであるが、自車前方の道路左隅(同車にとつて)に原告車が一時停止をしていたから同車との衝突を避けるため前方を注視し減速及びハンドルの右転把の各注意義務があるところ、同訴外人は前方道路右側(被告車にとつて)の建築中の鉄骨建物に気をとられて、原告車を発見すると同時に同車へ被告車を衝突させたものであるから、同人には過失がある。そして訴外伊東は被告の被用者であり、本件交通事故当時、被告の業務のために被告車を運転していたものである。したがつて、被告は後記3、(八)のいわゆる物的損害について民法七〇九条、七一五条一項による賠償責任を負う。

3  損害

原告は、本件交通事故により以下の損害を被つた。

(一) 治療費 金八三万四二五四円

原告は、訴外旭中央病院に対し、昭和五〇年二月二六日から同五三年九月八日までの前記1、(六)記載の傷害に関する治療費として金八三万四二五四円の支出を余儀なくされた。

(二) 付添看護費 金九三万六〇〇〇円

(1) 入院中の付添看護費 金一八万五〇〇〇円

原告は、前記傷害のために入院治療中、即ち、昭和五〇年二月二六日から同年五月一〇日までの全期間(七四日)にわたり付添人の付添看護を必要とし、近親者の付添を得たのであるから、一日あたり金二五〇〇円の割合で計算すると合計金一八万五〇〇〇円の経済的損失を被つた。

(2) 退院後の介助費 金七五万一〇〇〇円

原告は訴外旭中央病院を退院した翌日である昭和五〇年五月一一日から同五二年五月三一日までの全期間(七五一日)にわたり前記傷害のため付添人の介助を必要とし、近親者の介助を得たのであるから、一日あたり金一〇〇〇円の割合で計算すると合計金七五万一〇〇〇円の経済的損失を被つた。

(三) 入院雑費 金三万七〇〇〇円

原告は、前記入院期間(七四日)中、諸雑費として一日あたり金五〇〇円の割合による合計金三万七〇〇〇円の支出を余儀なくされた。

(四) 休業損害 金一〇二二万円

(1) 原告は、後記するような養鶏業である食肉用ブロイラー、同ヒナ及び鶏卵等の飼育販売を主業とし、米作及び野菜の生産販売等も兼ねて経営していたが、本件交通事故による前記1、(六)記載の傷害により右養鶏業を廃業するの止むなきに至つた。原告は、後記のように事故前の昭和四九年には年間金四九六万七六五四円の収入があつたので、本件交通事故に遭わなければ、昭和五〇年五月一一日から同五二年五月三一日までの七五一日の間に金一〇二二万円(一万円未満切捨)の収入があつた筈であるから、右同額の休業損害を被つた。

4,967,654×1/365×751=10,221,118(円)

(2) 原告の年間所得額

〈1〉 原告の本件事故による受傷前の職業

原告は、昭和二二、三年頃より本件事故当時まで、肩書地において米作・野菜の裁培と販売業のほかに鶏の採種・これの孵化及び養鶏業を営み、本件交通事故当時における養鶏業等の規模は次のとおりであつた。

(A) 先ず、養鶏数等については、次のとおりである。

(イ) ブロイラー用ヒナ 計九万四六五〇羽

(ロ) 種鶏 メス七〇〇羽、オス一〇〇羽

(ハ) ブロイラー(成鳥した食肉用)一万五三〇〇羽

(ニ) 白色レグホンヒナ(メス)及び鶏卵

(B) 右の養鶏業等を営むための施設として、原告は、建坪二五坪、鉄筋コンクリート製一階建の建物一棟を所有し、右建物は同建物内に孵卵機を設置してこれを使用(甲第一〇号証の一、二)し、鶏舎としては、建坪一〇〇坪の鶏舎三棟(甲第一一号証の一ないし三、同第一二号証の一ないし三)及び建坪六〇坪の同舎一棟(甲第一二号証の一ないし三、同第一四号証)を各所有し、同舎において右(A)、(イ)ないし(ニ)の各養鶏業(以下、本件養鶏業という。)を営んでいた。

〈2〉 昭和四九年の本件養鶏業による所得

本件養鶏業の昭和四九年における所得総額は金五三五万六八九二円であり、その内訳は(イ)ブロイラー用ヒナ販売、金三九八万一七五〇円、(ロ)鶏糞販売、金五二万五二〇〇円、(ハ)白色レグホンメスヒナ・食卵の販売、金四六万三七四〇円、(ニ)ブロイラー食肉用の販売、金三八万六二〇二円である。そこで右(イ)ないし(ニ)につき以下に述べる。

(イ) ブロイラー用ヒナについて

ブロイラー用ヒナの売上代金合計は金八二四万三七五〇円であり、その売却先、羽数及び売却代金の順序に内訳をみると、〈1〉多田孝、四万四〇九〇羽、金三七五万六三五〇円、〈2〉宇井年丸、一万二三八〇羽、金一〇八万四二〇〇円、〈3〉八木俊吾、九二〇〇羽、金八一万円、〈4〉塚本初太郎、三一五〇羽、金二八万三五〇〇円、〈5〉土屋正雄、四〇〇〇羽、金三六万円、〈6〉氏田昇、六五三〇羽、金五七万二七〇〇円、〈7〉自家用(原告用)、一万五三〇〇羽、金一三七万七〇〇〇円、となる。

次にブロイラー用ヒナの経費は金四二六万二〇〇〇円であるが、その内訳をみると、〈1〉種鶏購入代金、金三六万円(但し、一羽あたり金四五〇円にて八〇〇羽分)、〈2〉産卵開始までの右種鶏の飼料代金、金七三万六〇〇〇円(但し、一羽あたりの飼料代は金九二〇円)、〈3〉産卵開始後からの右種鶏の飼料代金、金三〇六万六〇〇〇円(但し、一羽あたり金一〇五円で三六五日)、〈4〉薬剤費、金五万円、〈5〉電熱費、金五万円、となる。

したがつて、ブロイラー用ヒナ販売の所得は、右売上額から経費を控除した金三九八万一七五〇円である。

(ロ) 鶏糞について

鶏糞の売上合計は金五三万五二〇〇円であり、その売却先、袋数及び売却代金の順序で内訳をみると、〈1〉鈴木茂昭、四〇〇袋、金九万六〇〇〇円、〈2〉渡辺政行、五〇〇袋、金二〇万円、〈3〉岩崎昭、九八〇袋、金二三万五二〇〇円、〈4〉鈴木幸春、三五〇袋、金八万四〇〇〇円である。

次にその経費は金一万円を超えない。鶏糞は生産されたものを袋につめる程度の労働で足り、その経費としては袋代だけである。

したがつて、鶏糞の販売による所得はその売上額から経費を控除した金五二万五二〇〇円である。

(ハ) 白色レグホンメスヒナ・食卵について

白色レグホンメスヒナ・食卵の売上合計は金一六九万一四〇〇円であり、その売却先、羽数等、売却代金の順序で内訳をみると、〈1〉菅谷和利、鶏卵、金三五万円、〈2〉多田孝、鶏卵、金八五万六〇〇〇円、〈3〉那須一雄、白色レグホンヒナ四五四〇羽、金四八万五四〇〇円である。

次に、白色レグホンメスヒナ・食卵の経費は金一二二万七六六〇円であり、その内訳は〈1〉ヒナ代金、金五万二五〇〇円(但し、一羽あたり金一五〇円で三五〇羽分)、〈2〉産卵開始までの飼育料、金四五万五〇〇〇円(但し、一羽あたり金一三〇〇円)、〈3〉産卵開始後の飼育料、金八五万四一〇〇円(但し、一日一羽あたり飼育料、金六・五円、羽数三六〇、三六五日)、〈4〉種鶏ヲスヒナ購入代金、金四〇〇〇円(但し、一羽あたり金二〇〇円で二〇羽分)、〈5〉右ヲスヒナ飼育料、金七万三〇〇〇円(但し、一日一羽あたり金一〇円で二〇羽分、三六五日)、〈6〉電気代、金五万円、〈7〉鑑別士への支払、金二万五〇〇〇円、〈8〉薬剤費、金五万円、〈9〉ヒヨコ輸送箱代、金五〇六〇円(但し、一箱あたり金一一〇円で四六箱分)、である。

したがつて、白色レグホンメスヒナ・食卵の販売による所得は、右売上額から右経費を控除した金四六万三七四〇円である。

(ニ) 食肉用ブロイラーについて

食肉用ブロイラーの売上合計は金八七八万五九〇二円であり、その売却先、羽数、金額の順序でその内訳をみると、〈1〉多田孝、九七三羽、金六〇万七四〇五円、〈2〉旭市農業協同組合、一万四三二七羽、金八一七万八四九七円、である。

次に、食肉用ブロイラーの経費は金八三九万九七〇〇円であり、その内訳は次のとおりである。まず、一〇〇〇羽単位での経費内訳は、〈1〉飼料、金四二万九〇〇〇円、〈2〉薬剤費、金一万五〇〇〇円、〈3〉電気代、金一万五〇〇〇円、〈4〉ヒナ購入代、金九万円であり、合計金五四万九〇〇〇円であるところ、原告は一万五三〇〇羽を売却したので、同売却羽数についての経費を割合計算により求めるとき金八三九万九七〇〇円となる。

したがつて、食肉用ブロイラー販売による所得は、右売上額から右経費を控除した金三八万六二〇二円である。

〈3〉 原告の寄与率(いわゆる労働費)

本件養鶏業の業務遂行にあたつては、原告が、その中心となつて担当していたが、長男訴外伊藤幸輝及び妻訴外伊藤時も同じく右に従事していたのであるから、これを考慮するとき、原告のいわゆる寄与率(いわゆる労働費)は七〇パーセントとみるのが相当である。

しかるとき、昭和四九年における本件養鶏業の年間所得は金五三五万六八九二円の七〇パーセントは金三七四万九八二四円となる。

〈4〉 米作所得 金七〇万三二一一円

原告は、水田一九〇アールを所有し、原告、その妻訴外時及びその子訴外幸輝が右水田による米作に従事し、年間一八二俵の米を生産していた。そして右生産米のうち一二三俵は訴外旭市農業協同組合へ、うち三〇俵は訴外石毛英雄へ各売却し、いわゆる自家使用分は二〇俵であつて原告及びその家族が消費していた。

この米作による年間収入は金二六三万五〇八八円であつたが、年間経費は金二九万一〇五〇円を要していたので、その所得は金二三四万四〇三八円となる。

但し、米作は原告の妻及び子の前記訴外人らが中心となつて経営していたので、これを考慮するとき、原告のいわゆる寄与率は三〇パーセントとみるべきである。したがつて、原告の寄与率に応じた米作所得は金七〇万三二一一円である。

〈5〉 野菜所得 金五一万四六一九円

原告は、モロコシ、梨、レタス及びニンニク等を栽培してこれを販売していたものであるが、その年間収入は金二一七万六五一二円、その年間経費は金四六万一一一五円であり、所得は金一七一万五三九七円である。

但し、野菜の栽培及び販売は原告の妻など前記訴外人らが中心となつて経営していたので、これを考慮するとき、原告のいわゆる寄与率は三〇パーセントとみるべきである。したがつて、原告の右寄与率に応じた所得は金五一万四六一九円である。

(3) 原告の年間所得

以上のところから、原告の昭和四九年における所得は、本件養鶏業によるもの金三七四万九八二四円、米作によるもの金七〇万三二一一円及び野菜所得金五一万四六一九円を合算した金四九六万七六五四円である。

(五) 逸失利益 金二八九二万円

原告は、本件交通事故の当時、本件養鶏業及び米作野菜栽培等の経営による年間所得として金四九六万七六五四円を得ていたところ、本件事故により前記1、(六)記載の傷害を受け、脳室腹腔吻合術の手術を受けたほか、外傷性てんかんを予知する脳波が出たため抗けいれん剤の服用を続けながら現在に至るが、原告は歩行障害、四肢の運動障害、右半身のしびれ感、視力減退(左〇・四、右〇・二)の後遺症を残し、これは自動車損害賠償保障法施行令所定別表七級四号と認定されたので、原告の職業の稼働内容及び状況を勘案すると、同人はその労働能力の五六パーセントを喪失し、こうした状態が労働可能期間を全部通して継続すると考えられる。したがつて、原告は五二歳から六七歳まで一五年間にわたり少なくとも前記認定の収入を得ることができたのであるから、これを年五分の割合による中間利息をライプニツツ式により控除して現価を求めると金二八九二万円(一万円未満切捨)となるから、同額の後遺症に基づく得べかりし利益を喪失した。

4,967,654×0.56×10.3976(ライプニツツ係数、但し15年)=28,924,940

(六) 慰藉料 金一〇〇〇万円

原告は前記1、(六)記載の重傷を受け、入院治療七四日、通院治療三年強を要し、右治療によるも右半身麻痺、運動失調著明、発音、機能障害及び裸眼視力左〇・四、右〇・二の減退などの後遺症(自動車損害賠償保障法施行令所定別表七級四号)を残し、現在もなお抗けいれん剤を継続して服用し、またリハビリテーシヨンを続けて受けている。その他本件一切の諸事情も勘案すると原告の被つた精神的苦痛を慰藉するには金一〇〇〇万円を下廻らない慰藉料が相当である。

(七) 弁護士費用 金二〇〇万円

原告は本件訴訟の提起及び追行を原告訴訟代理人に委任し、その報酬として金二〇〇万円を支払う旨約した。

(八) 損害の填補 金五一四万五六一四円

原告は自動車損害賠償責任保険金金四一八万円(後遺障害補償分)を、そして被告からの任意弁済として金九六万四六一四円の支払を了した。

(九) 原告車の損害 金四五万五〇〇〇円

原告は本件交通事故により所有する原告車を破損された結果、その修理費用として訴外トヨタカローラ京葉株式会社旭営業所に対し金四五万五〇〇〇円の支払を余儀なくされた。

(一〇) 合計 金四八五三万六六四〇円

以上前記(一)ないし(七)の合算額から(八)の金員を控除した残額と(九)の金員を加算すると金四八二五万六六四〇円となる。

4  結論

よつて、原告は被告に対し、本件不法行為に基づく損害賠償金金四八二五万六六四〇円及び内金四六五三万六六四〇円に対する不法行為日の翌日である昭和五〇年二月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに内金二〇〇万円に対する本判決確定の日の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項、(一)ないし(四)の各事実は認め、(五)の事実は否認し、(六)の事実は不知。

2(一)  同第2項(一)の事実は認める。但し、人的損害額については不知。

(二)  同項(二)の事実中、訴外伊東が被告車を時速四〇キロメートルで運転していた点、同訴外人は被告の被用者であり、本件交通事故当時、被告の業務のために被告車を運転していたものである点及び同訴外人に前方注視義務違反の過失があつた点は認めるが、自車前方の道路左隅に原告車が一時停止していたことは否認し、その余は争う。但し、物的損害額は不知。

3(一)  同第3項(一)の事実は不知。なお、本件事故と相当因果関係があるのは原告の症状固定日である昭和五〇年一二月六日までの治療費に限られる。

(二)  同項(二)の事実は不知。なお、入院期間が七四日であることは認める。本件事故と相当因果関係があるのは右症状固定日までの付添看護費に限られる。

(三)  同項(三)の事実は不知。なお、入院期間が七四日であることは認める。

(四)  同項(四)の事実中、原告が養鶏業を営んでいた者であることは認めるが、その廃業は本件交通事故と相当因果関係はなく、不況により右事故以前において既に収益をあげられなくなつていたのである。その余は不知。

農業収入についてみると、原告は名義上は養鶏業と農業の双方の経営者であつたが実際に行なつていたものは養鶏業だけであり、農業は原告の妻訴外伊藤時と長男訴外伊藤幸輝夫婦が行ない、原告は意見を述べたり、農繁期に手伝う程度であつた。加えて、農業収入は必ずしもその全部が就労者本人の労働能力として評価すべきではなく、農地という固定資本から生ずる資本利得も含まれている点を勘案するならば、原告の年間所得を算定するにあたつて、米作、野菜等の農業所得を加算すべきではない(なお、原告は、農業所得の算定にあたつて、必要経費である公租公課を控除していない)。

次に、本件養鶏業による収入をみると、原告が本件養鶏業を営むにあたり必須な経費の金額は結局不明確であるといわざるを得ず、そして原告の確定申告した昭和四九年度分の所得が僅か金九一万円余であることと相挨つて原告にその主張の年間所得があつたとは到底認められない。また、原告の養鶏業に対する寄与率は五〇パーセントである。その理由は、〈1〉原告は各種の公職に就いていて多忙であつたこと、〈2〉養鶏用の施設は原告の自宅の敷地用或いはその近くにあつて原告の家族がその仕事に従事し易い場所にあつたこと、〈3〉農業は忙しい時間が限られているので、それ以外の時期は訴外伊藤時や訴外長男夫婦も養鶏業に従事していたと考えられること、〈4〉孵卵以外のブロイラーの飼育販売については専門的技術を必要としないこと、〈5〉事故後、長男がブロイラーの飼育をしていること等から、原告の妻や長男が相当程度原告の養鶏業を補助していたことが明らかであるからである。

(五)  同項(五)の事実中、原告が後遺症について、自動車損害賠償保障法施行令二条所定別表の七級四号と認定されたことは認める。原告の傷害の部位、程度及び後遺症の具体的内容、労働能力喪失割合、その継続期間などは不知。

(六)  同項(六)の事実は不知、慰藉料額は争う。

(七)  同項(七)の事実は不知。

(八)  同項(八)の事実は認める。

(九)  同項(九)の事実は不知。

(一〇)  同項(一〇)は争う。

三  過失相殺の抗弁

被告車の訴外伊東は、緩やかな左カーブの上下各一車線の本件道路(幅員七メートル)を時速約四〇キロメートルで、小見川町方面より旭市内方面に向け走行していた。他方原告は訴外伊東の走行車線(以下、本件走行車線という。)に接続して設けられている倉庫前の駐車用広場(以下、本件駐車場という。)に道路とは逆向きに駐車してあつた原告車を運転し、同広場の中を右向きに半回転して一時停止もしないまま本件道路に乗り出した。その際、原告は右方、即ち小見川町方面の約三、四〇メートルの位置に既に被告車が進行接近してきていたのにこれに気付かないか、又はこれを認めても、漫然危険を認識せず、更にそのまま、本件道路に進出したため、原告車の右側面(真横)と、被告車の前部左側とが衝突した。右衝突位置は、訴外伊東の走行車線(幅員三・五メートル)の道路端から二メートルの地点であり、原告車は、右車線を完全に閉塞した形であつた。加えて原告車が右広場から本件道路に出る場合、同所は同道路がカーブしている上右隣りの家の生垣にさえぎられて小見川町方面の見透しは充分でない場所であつた。以上によれば、原告には本件交通事故の発生につき重大な過失があり、その過失割合は四〇パーセント以上とみるべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実中、〈1〉被告車の進行方向(小見川方面より旭市内方面に向つて)、〈2〉被告主張の本件走行車線に接続して倉庫前の本件駐車場があること、〈3〉原告車は当初本件駐車場に駐車させてあつたこと及び同駐車の形態は車両の後尾を本件走行車線へ向けていたこと(従つて同車の前部は同車線の反対側へ向けていたこと)、〈4〉原告が原告車を本件走行車線へ乗り入れるにあたり同車を同駐車場内で右折一回転させたこと、〈5〉衝突個所が原告車右側面(運転台)と被告車前部左側とであること、〈6〉衝突地点が道路端より中央線へ向け二メートルの位置にあること、〈7〉本件駐車場の北側に樹木があること及び同樹木により見透しが妨げられていること

はいずれも認め、〈1〉原告車が本件走行車線への進入時に一時停止を怠つたこと(同車は一時停止をした。)、〈2〉被告車が約三、四〇メートルに接近していたこと、〈3〉原告が被告車に気付かなかつたこと(原告は同人が停止した地点より小見川方面へ向け約四〇メートルの地点に被告車を発見している。)、〈4〉原告が被告車の接近を認識しないまま本件走行車線へ進入したこと

はいずれも否認する。その余は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(事故の発生)、(一)日時、(二)場所、(三)被害車、(四)加害車の各事実は当事者間に争いがない。

二  同第2項(責任原因)、(一)の被告は、被告車を所有し、被用者である訴外伊東をして自己の業務のために被告車を運転させて自己のために運行の用に供していた者であることは当事者間に争いがない。

同項(二)のうち訴外伊東は被告の被用者であり、本件事故当時、被告の業務のために被告車を運転していたこと及び同訴外人に前方注視義務違反の過失があつたことは当事者間に争いがない。

三  訴外伊東が被告車を時速四〇キロメートルで運転していたこと、その進行方向は小見川方面より旭市内方面に向つていたこと、被告車の進行車線である本件走行車線に接続して本件駐車場(倉庫前の駐車場)があること、原告車は当初本件駐車場に駐車させてあつたこと、駐車の形態は車両の後尾を本件走行車線へ向けていたこと(従つて同車の前部は同車線の反対側へ向けていたこと)、原告は原告車を本件走行車線へ乗り入れるにあたり同車を同駐車場内で右折一回転させたこと、衝突個所が原告車右側面(運転台)と被告車前部左側とであること、衝突地点が道路端より中央線へ向け二メートルの位置にあること、本件駐車場の北側に樹木があること、同樹木により見とおしが妨げられていることは、当事者間に争いがない。

右当事者間に争いがない事実及びいずれも成立に争いのない甲第一号証及び同第九号証、同乙第一、第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一八号証の一ないし八、証人伊東佐右衛門及び同伊藤卓治の各証言並びに原告本人尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く)を総合すると、次の事実を認められる。

1  本件交通事故現場は、前記認定のように千葉県旭市江ケ崎六六一番地、嚶鳴農業協同組合前の小見川(琴田小学校)方面から旭市内方面へ北から南に通じる平坦乾燥のアスフアルト舗装の県道路上で、その道路幅員は七・〇メートルで白色破線の中央線により上下二車線に区分され、一車線の幅員は三・〇メートル、路側帯の幅員は〇・五メートルであり、その外側に設置されてある側溝の幅員は〇・四メートルであり、事故の発生した本件走行車線に接して倉庫前にコンクリート製の本件駐車場があり、右駐車場と右走行車線の間の側溝上には蓋がある。そして同道路は北から南に向け左曲りのカーブを抜けてから本件事故現場付近の辺りは直線となり、しばらく南下すると再び右カーブする状況にあり、本件駐車場の北方で本件走行車線の東側には背の高い植木が繁茂しているため見とおしは不良であるほか、両傍には建物があるとはいえいわゆる非市街地に位置し、交通規制としては制限速度毎時六〇キロメートル(高速車)があるだけである。なお、事故時の天候は晴である。

2  訴外伊東は、本件交通事故が発生した前記日時ころ、被告車を運転して小見川方面から旭市内方面に向けて時速約四〇キロメートルの速度で本件走行車線を南進中、自車のルームミラーで後続車両を確認したのち視線を進路前方に移すことなく右前方道路傍において建築中の鉄骨建築物に移してこれを眺めながら進行し顔を進路正面に戻した途端、前方に横向きに停車している原告車を発見し、衝突を回避するなんらの措置をとる間もなく同車右側面(フロントフエンダー、フロントドアー等)に自車左前部を衝突させ(同所は道路左端から二メートルの地点である。以下、衝突地点という。)、急制動の措置をとるもそのまま原告車を押し動かせて衝突地点から前方一二メートルの本件走行車線上に南向きに停止させ、自車も右衝突地点から前方一三・三メートルの対向車線上にほぼ同方向を向いて停車させた。

3  原告は、本件交通事故日である昭和五〇年二月二六日午前一一時一五分ころ、前記本件駐車場で車両後尾を道路に向けて駐車中の原告車に乗り同駐車場内で右折合図を点滅させ、かつ徐行しながら右折一回転してから自宅へ帰るために北進すべく本件走行車線に乗り出そうとしたが、北方は前記植木などのためカーブから出て来る車両に対し見とおしは不良であつたので本件走行車線に入つた段階で左右の安全を確認したとき、被告車が左方から接近進行して来るのを認めたが、停止してやり過ごすことなく道路左端から右車線内二メートルの地点に進出したとき原告車が近距離に迫つているのに気付き制動をかけて同所に停車したが、被告車により自車右側面に衝突された。なお原告車が本件走行車線に入つた段階における右方(北方)の見とおし可能範囲は原告車の位置から約四一メートル北方の地点までであつた。

以上の事実を認めることができ、右認定に反する原告本人尋問の結果部分は前掲各証に照らし採用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

以上認定の事実によれば、被告の被用者である訴外伊東には前方注視義務違反の過失があり(この点は前記のように当事者間に争いがない。)、これより本件事故を発生せしめたのであるから、前記二認定の事実を併せみるとき、被告には使用者としての不法行為責任があるというべきである。

次に、原告は本件駐車場から本件走行車線に出るにあたり、右方から進行して来る被告車を認めながら同車の通過を待つことなしに右車線上に乗り出した後に制動の措置をとり同所に停車したことは被告車の正常な進行を妨げる不適切な横断をしようとした過失があるというべきであり、この被害者の過失は原告の損害額を算定するに際し斟酌するのが相当であり、右過失相殺による減額の割合は三〇パーセントとするのが相当である。

四  成立に争いのない甲第二号証の一ないし五、同第四号証の一ないし七、同第七号証の一ないし五、同第一七号証、同第二四、第二五号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件交通事故により脳挫傷、右助骨骨折(Ⅱ・Ⅴ・Ⅵ・Ⅶ・Ⅷ・Ⅹ・ⅩⅠ)、外傷性気胸及び正常脳圧水頭症の傷害を受け、事故日である昭和五〇年二月二六日から、千葉県旭市イの一三二六番地所在の訴外旭中央病院に入院したが、当初は意識障害が強く呼吸困難であり、意識状態の改善がはかばかしくなかつたので脳室腹腔吻合術を行なつたところ著明な改善をみ、以後順調に回復し同年五月一二日には退院するにまで至り(この間の入院日数は七四日)、その後、右一二日から昭和五三年九月八日まで右訴外病院において外傷後のけいれんを予防するために抗けいれん剤の投薬を受けて服用しているほか、マツサージ、機能訓練、温熱療法、頸椎牽引の施療を受けるなどして通院治療に努め、右通院治療期間は一二一六日であり、うち実通院日数は三二一日であること、もつとも原告は、昭和五〇年一二月六日、頭部外傷後遺症(正常脳圧水頭症、てんかん)の傷病名のもとに右半身の麻痺、運動失調著明(歩行障害、四肢の運動障害のために連続歩行はほとんど不能、約五〇メートル以下)、発音機能障害及び裸眼視力左〇・四、右〇・二の視力障害が後遺症として固定し、右後遺症は自動車損害賠償保障法施行令別表(第二条関係)等級別後遺障害一覧表第七級四号に該当すると認められ、右症状固定日までの入通院日数は入院期間七四日、通院期間二〇九日(実通院日数は一五〇日を超えている。)であることが認めることができ、他に右認定を左右する証拠はない。

五  そこで原告が本件交通事故により被つた人身損害及び物的損害につき順次検討を加える。

1  治療費 金五二万一八四五円

前記四認定の事実及び成立に争いのない甲第三号証の一ないし九及び一一ないし一三、同第四号証の一、二によれば、原告は訴外旭中央病院に対し、本件交通事故日である昭和五〇年二月二六日から後遺障害の症状固定日である同年一二月六日までの前記認定の傷害に関する治療費として少なくとも金七〇万五四九三円の支出を余儀なくされたことを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。

原告は後遺障害の症状が固定した右一二月六日の翌日以降に支出した治療費も被告が賠償すべき損害の範囲内にあると主張するが、治療効果のなくなつた時点を症状固定と判断するものである以上、症状固定日の後の医療関係費(治療費の表現は妥当ではない。)は原則として治療効果はないのであるから施療の必要がない出損に過ぎず事故との相当因果関係を欠くといわざるを得ない。しかし、例外として、てんかんの場合の抗てんかん剤の服用は後遺症状の固定を維持するために不可欠なものであるから右の薬代等の医療費は事故との相当因果関係があるというべきである。しかるとき、前記認定のように原告は頭部外傷後遺症(正常脳圧水頭症、てんかん)のために抗けいれん剤を服用していたことが認められ成立に争いのない甲第四号証の二ないし七、同第七号証の二ないし五及び弁論の全趣旨によれば、昭和五〇年一二月七日から同五三年九月八日までに右抗けいれん剤の投薬料として少なくとも金四万円の出損があることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

しかし、以上の他の症状固定日の後に出損した医療関係費用は相当因果関係の範囲内にある損害であることを認めるに足る証拠はない。

そこで、右合計金七四万五四九三円に前記過失相殺による三〇パーセントの減額をすると金五二万一八四五円(一円未満切捨)となる。

2  付添看護費

(一)  入院中の付添看護費 金七万七七〇〇円

証人伊藤時の証言(第一回)及び弁論の全趣旨並びに前記認定の事実によれば、原告は前記傷害のために訴外旭中央病院に昭和五〇年二月二六日から同年五月一〇日までの入院期間(七四日)中、付添人の付添看護を必要とし、妻訴外伊藤時などの近親者の付添を得たものであり、一日金一、五〇〇円の割合による金一一万一、〇〇〇円相当の経済的損失を被つたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。右金員に前記過失相殺による三〇パーセントの減額をすると金七万七、七〇〇円となる。

(二)  退院後の介助費

原告は退院後の介助費として金七五万一、〇〇〇円相当の経済的損失を被つたと主張するが、退院後の原告が家庭内において妻子等の介助を得て生活をした場合に右妻子家族の負担を直ちにこれを損害とみうるものではなく、通常は配偶者、親、その他の親族に課せられた扶養(経済的給付及び身辺監護)義務の履行に過ぎないというべきであるけれども、右扶養義務者に対する負担が一定の程度を超え職業的付添人の付添介助を必要とする特段の事情があり、かつ職業的付添人あるいは近親者による付添介助を受けた場合にその経済的損失を損害とみうることはあるというべきである。しかるところ、証人伊藤時の証言(第一回)によれば、原告は前記病院を退院した後およそ二年間(昭和五二年五月末ころまで)にわたり妻など近親者による身辺の世話を受けていたことが認められ、他に右認定に反する証拠はないが、進んで右に述べた特段の事情を認めるに足る証拠はないので、原告の右主張は理由がない。

3  入院雑費 金二万〇、七二〇円

原告は、前記訴外病院に七四日入院したことは前記認定のとおりであり、経験則に照らせば、一般に入院期間中は平均すると一日当たり(昭和五〇年当時)金四〇〇円程度の雑費を支出するのが通常であると認められるから、本件においても、右入院期間中右と同程度の支出をしたものと推定され合計金二万九、六〇〇円の支出を余儀なくされたものと認められ、(成立に争いのない甲第三号証の一〇によれば、原告が体温計一本金一七〇円の支出があつたことが認められるが、これは右入院雑費中に含まれている。)他に右認定に反する証拠はない。右金員に前記過失相殺による三〇パーセントの減額をすると金二万〇、七二〇円となる。

4  休業損害 金一五九万〇、四〇〇円

原告は、後記認定のように養鶏業、食肉用ブロイラー、同ヒナ及び鶏卵等の飼育販売を主業とし、米作及び野菜の生産販売等も兼ねて経営していたが、本件交通事故による前記認定の傷害によつて昭和五〇年二月二六日から同年一二月六日の症状固定日まで休業の止むなきに至り、この間の得べかりし利益を喪失したことは叙上認定のところから明らかであるところ、原告は昭和四九年の年間所得は金四九六万七、六五四円であつたと主張するので、以下この点を判断する。

(一)  職業と経営規模

証人伊藤時の証言(第一回)及びこれにより真正に成立したと認められる甲第一〇号証の一ないし三、同第一一号証の一ないし三、同第一二号証の一ないし三、同第一三号証の一ないし三、第一四、第一五号証及び原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認められる。

原告伊藤道夫は大正一二年一一月六日生まれ(当時五一歳)の健康な男性であり、昭和二二、二三年ころから養鶏業に従事していた兼業農家を経営する者である。原告は孵卵につき専門的な技術を有し、主として養鶏業、ブロイラーヒナ、食肉用ブロイラー、鶏糞、白色レグホンメスヒナの飼育販売に従事し、その他に、本件養鶏業も手伝つていた妻訴外伊藤時及び長男訴外伊藤幸輝夫婦が中心となつて経営していた米作及び野菜の生産販売に意見を述べたり、農繁期の手伝いをする程度の関与をしていた。また、原告は中琴田区長、琴田小学校PTA役員、孵卵協会理事、交通安全協会役員、旭農協青年部教育部長などの公職にも就いていた。

原告は前記養鶏業等を経営するための設備として、所有地上に孵卵機を設置した孵卵室建物一棟(二五坪)、鶏舎五棟(一〇〇坪の鶏舎三棟、六〇坪のもの二棟)、養鶏飼料タンク一基を所有し、田地一町九反、畑地六・七反を持ち、自動車四台(孵卵配達用二台、農業用二台)を所有し、家族構成は原告ら夫婦、長男夫婦、祖父母の六名であつたが実稼働人数は祖父母を除く四名であつた。そして事故後、本件養鶏業の担い手は訴外伊藤幸輝が中心となり、その規模は大きく縮少されることとなつた。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右する証拠はない。

(二)  昭和四九年の原告の所得

原告は、昭和四九年におき、本件養鶏業及び米作並びに野菜栽培に基づく所得があつたと主張するので、右の順序に検討を加える。

(1) 養鶏業による所得

成立に争いのない甲第二〇号証、証人伊藤時の証言(第一回)により真正に成立したと認められる甲第五号証の一ないし一五、同甲第一六号証、証人伊藤時の証言(第二回)により真正に成立したと認められる甲第一九号証、同第二一ないし第二三号証、証人伊藤時の証言(第一及び第二回)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

イ ブロイラー・ヒナについて

原告は、〈1〉訴外多田孝(以下、訴外多田という。)に対し、昭和四九年一月から一二月までの間に、ブロイラー・ヒナ四万四〇九〇羽(単価は五〇ないし九五円)を代金三七五万六、三五〇円で、〈2〉訴外宇井年丸に対し、同年一月から一一月までの間に、同ヒナ一万二三八〇羽(単価、七五ないし九〇円)を金一〇八万四、二〇〇円で、〈3〉訴外八木俊吾に対し、同年二月から一二月までの間に、同ヒナ九二〇〇羽(単価、七五ないし九〇円)を金八一万円で、〈4〉訴外塚本初太郎に対し、同年三月から一一月までの間に、同ヒナ三一五〇羽(単価、九〇円)を金二八万三、五〇〇円で、〈5〉訴外土屋正雄に対し、同年一月から一二月までの間に、同ヒナ四〇〇〇羽(単価、九〇円)を金三六万円で、〈6〉訴外氏田昇に対し、同年二月から一一月までの間に、同ヒナ六五三〇羽(単価、七五ないし九〇円)を金五七万二、七〇〇円でそれぞれ販売し、〈7〉ブロイラー・ヒナ約一万六八三三羽は自家用として残し、後記するように食肉用ブロイラーとして販売されることになる。以上〈1〉ないし〈6〉のブロイラー・ヒナ販売合計金額は金六八六万六、七五〇円となる。

次に、ブロイラー・ヒナの経費としては、種鶏購入代金金三六万円、産卵開始時まで約七ケ月間の右種鶏の飼料代金金七三万六、〇〇〇円、産卵開始時以後の右種鶏の飼料代金金三〇六万六、〇〇〇円、予防並びに治療目的の薬剤費約金五万円、暖熱と電燈代の電熱費約金五万円を必要とし、右の合計は約金四二六万二、〇〇〇円となる。

そこでブロイラー・ヒナ販売の合計金六八六万六、七五〇円から右経費合計約金四二六万二、〇〇〇円を控除すると金二六〇万四、七五〇円となるが、前記した経費には消耗機材費その他のものが計算されていない点を考慮しても、ブロイラー・ヒナの販売により少なくとも金二二〇万円を下廻らない利益をあげていた。

ロ 鶏糞について

原告は、〈1〉訴外鈴木茂昭に対し、昭和四九年一〇月一〇日、鶏糞四〇〇袋を代金九万六、〇〇〇円で、〈2〉訴外渡辺政行に対し、同年一二月三日、鶏糞五〇〇袋を代金一二万円で、〈3〉訴外岩崎昭に対し、同年一〇月一〇日、鶏糞九八〇袋を代金二三万五、二〇〇円で、〈4〉訴外鈴木幸春に対し、同年三月五日、鶏糞三五〇袋を代金八万四、〇〇〇円でそれぞれ売却し、右販売合計代金は金五三万五、二〇〇円となる。

鶏糞販売の経費をみるところ、袋代が中心となるところ、飼料用の袋を廃品利用しているので、雑費等を考慮に入れても年間金一万円を超えない。

したがつて、鶏糞販売代金の合計金五三万五、二〇〇円から右経費金一万円を控除した残金として少なくとも金五三万円を下廻らない利益をあげていた。

ハ 白色レグホン・メスヒナと食卵について

原告は、〈1〉訴外菅谷和利に対し、昭和四九年一月から一二月までの間に、鶏卵を合計金三五万円で、〈2〉訴外多田に対し、右同期間内に、鶏卵を合計金八五万六、〇〇〇円で、〈3〉訴外那須一雄に対し、同年一月から九月までの間に、白色レグホン・メスヒナ四五四〇羽(単価、九〇ないし一一〇円)を合計金四八万五、四〇〇円でそれぞれ販売し、その合計は金一六九万一、四〇〇円となる。

次に、その経費としては、種鶏となるメスヒナ購入代金金五万二、五〇〇円、右種鶏の産卵開始時までの約六ケ月間の飼料代金金四五万五、〇〇〇円、産卵開始時以後の飼料代金金八五万四、一〇〇円、種付け用のヲス鶏購入代金金四、〇〇〇円、同ヲス鶏の年間飼育料金七万三、〇〇〇円、電気代約金五万円、鑑別費金二万五、〇〇〇円、薬剤費約金五万円、ヒヨコ輸送ダンボール箱金五、〇六〇円を要し、以上を合計すると約金一二二万七、六六〇円となる。

したがつて、白色レグホン・メスヒナと食卵の販売代金の合計金一六九万一、四〇〇円から右経費約金一二二万七、六六〇円を控除すると残金は約金四六万三、七四〇円となるが、前記した経費には消耗機材費、運送費その他のものが計上されていない点を考慮しても、白色レグホン・メスヒナ等の販売により少なくとも金四五万円を下廻らない利益をあげていた。

ニ 食肉用ブロイラーについて

原告は、〈1〉訴外多田に対し、昭和四九年一ないし二月までの間に、食肉用ブロイラー九七三羽を代金金六〇万七、四〇五円で、〈2〉訴外旭市農協に対し、同年一月から一二月までの間に、同ブロイラー一万五、八六〇羽を七八一万四、七九〇円(一円未満切捨)でそれぞれ販売し、右の合計は金八四二万二、一九五円となる。

次に、その経費をみるに、ブロイラー・ヒナは前記認定のように自家用ブロイラー・ヒナであるから右ヒナの購入代金は零であり、その他については一〇〇〇羽当り飼料費約金四二万九、〇〇〇円、薬剤費約金一万五、〇〇〇円、電気代約金一万五、〇〇〇円の合計四五万九、〇〇〇円を要するのであるから、一万六八三三羽分の右経費は約金七七二万六、三四七円となる。

したがつて、食肉用ブロイラーの販売代金の合計金八四二万二、一九五円から右経費約金七七二万六、三四七円を控除すると残金は約金七〇万一、〇五八円となるが、前記した経費には消耗機材費などが計上されていない点を考慮しても、右食肉用ブロイラーの販売により少なくとも金五〇万円を下廻らない利益をあげていた。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

ホ 以上認定した本件養鶏業に関するイないしニの各利益金を合計すると少なくとも金三六八万円になり、叙上認定の原告ら家族の中で原告自身が果した本件養鶏業に対する寄与の割合は少なくとも七〇パーセントは下らないと認めるのが相当であり、しかるとき、原告の右寄与に応じた本件養鶏業に関する年間所得は金二五七万六、〇〇〇円を下廻らないと認められる。

(2) 米作による所得

前掲甲第五号証の一五、同第一六号証、証人伊藤時の証言(第一回)により真正に成立したと認められる甲第五号証の一六、証人伊藤時の証言(第一回)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実を認めることができる。

原告の長男夫婦及び原告の妻は前記水田で米作に従事し、原告自身は米作につき意見や指図をするほか農繁期の手伝いをしていたにとどまるが、原告は〈1〉訴外旭農協に対し、昭和四九年に米一三二俵を代金金一八七万一、五二四円で、〈2〉訴外原安商店こと石毛英雄に対し、同年一〇月六日、モチ米三〇俵を代金金四八万円でそれぞれ売却し、〈3〉米約二〇俵(約金二八万円相当)を原告ら家族の食用に供した。以上の米作による粗収入は合計金二三五万一、五二四円となる。

次に、米作経営に伴う経費としては、肥料、薬剤、モミスリ、苗代資材、雑費、人夫賃(田植)の各費用合計金二九万一、〇五〇円を要した。

したがつて、米作による粗収入である金二三五万一、五二四円から右認定経費金二九万一、〇五〇円を控除すると残金は金二〇六万〇、四七四円となるが、前記経費には消耗資材費等が計上されていないこと及び農地資本の利得部分は控除すべきことを勘案しても、米作につき少なくとも金一九〇万円を下廻らない利益をあげていたと認められ、他に右認定に反する証拠はない。しかるとき、米作収入における原告自身の寄与率は、叙上認定の事実に照らすとき、少なくとも一〇パーセントは下らないと認めるのが相当であり、原告の右寄与に応じた米作に関する年間所得は金一九万円を下廻らないと認められる。

(3) 野菜栽培による所得

前掲甲第五号証の一五、同甲第一六号証、証人伊藤時の証言(第一回)により真正に成立したと認められる甲第五号証の一七及び証人伊藤時の証言(第一回)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

原告の長男夫婦が中心となり、原告夫婦は手伝いをする程度の関与をしていたトウモロコシ、梨、レタス、ニンニクなどの野菜等の栽培をしていたことは前述したが、原告は〈1〉訴外旭農協に対し、昭和四九年中に、野菜及び果物を合計金八四万七、九二二円販売し、〈2〉訴外漬屋青果地方卸売市場において、昭和四九年六月から一一月までの間に野菜及び果物を合計金一三二万八、五九〇円売買した。

その年間経費(種子代、苗木代、肥料代、薬剤代、出荷資材代等)は合計金四六万一、一一五円を要した。したがつて、野菜栽培による粗収入金二一七万六、五一二円から右認定の経費金四六万一、一一五円を控除すると残金は金一七一万五、三九七円となるが、前記経費には運送賃等が計上されていないこと及び農地資本の利得部分は控除すべきことを勘案しても、少なくとも金一六〇万円を下廻らない利益をあげていたと認められ、他に右認定に反する証拠はない。しかるとき、野菜等の栽培販売による収入における原告自身の寄与率は、叙上認定の事実に照らすとき、少なくとも一〇パーセントは下らないと認めるのが相当であり、原告の右寄与に応じた右の年間所得は金一六万円を下廻らないと認められる。

(4) 合計

以上に認定した昭和四九年における原告の本件養鶏による所得は金二五七万円、米作による所得は金一九万円及び野菜栽培による所得は金一六万円を各下廻らないと認められ、これらを合計すると金二九二万円となる。したがつて、本件交通事故の前年である昭和四九年における原告の総所得は金二九二万円であり、ここから公租公課を控除することは相当でないので右全額が休業に基づく逸失利益の計算の基礎収入として置かれるべきである。

(三)  休業損害

叙上認定の原告の職種、業務内容、入院期間七四日、通院期間二〇九日(実通院日数)、治療経過及び後遺症状などを総合して判断するとき、後遺症状固定日までの相当因果関係ある休業損害(治療のための入通院期間中に本件交通事故がなければ得られたであろう高度の蓋然性がある所得の喪失)は金二二七万二、〇〇〇円となる。

(計算式)

2,920,000÷365×283=2,272,000

そこで右金二二七万二、〇〇〇円に前記過失相殺による三〇パーセントの減額をすると金一五九万〇、四〇〇円となる。

5  後遺症による逸失利益 金一、一八九万〇、九〇〇円

後遺症状が固定した昭和五〇年一二月六日の翌日以降における原告の前記後遺症による逸失利益を検討するに、叙上認定の事実によれば、原告は本件交通事故の当時五一歳(大正一二年一一月六日生)の兼業農家を経営する健康な男性であり、経験則に照らせば、原告は右症状固定日から平均余命の範囲内で少なくともなお一五年間稼働できると認められるところ、前記のような後遺症の程度及び内容は自動車損害賠償保障法施行令別表等級別後遺障害一覧表第七級四号に該当し、当裁判所に顕著な労働基準局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号によれば同級の労働能力の喪失率は五六パーセントであり、また、原告は、前記のように、症状固定日から昭和五二年五月末までは、家人の世話を受けながら生活していたのでその業種、及び内容に照らしほとんど就労できるような状況になく、その後は次第に機能が回復するに至つたけれども、原告の年齢、本件養鶏業や米作等の業務内容、経営規模などの諸事情を勘案して総合判断すると、将来の稼働可能期間一五年のうち、最初の二年間は九〇パーセント、次の六年間は五六パーセント、最後の七年間は四〇パーセントの労働能力を低下するものと認められ、前記金二九二万円の年間所得を前提として計算した右期間内の後遺症に基づく相当因果関係のある逸失利益(後遺症がなければ得られたであろう高度の蓋然性のある所得の喪失)にライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して後遺症状固定時における現価を計算すると金一、六九八万七、〇〇〇円となる。

(計算式)

2,920,000×0.9×1.8594=4,886,500……〈1〉

2,920,000×0.56×4.60=7,521,900……〈2〉

2,920,000×0.4×3.92=4,578,600……〈3〉

〈1〉+〈2〉+〈3〉=1698万7000円

右金員につき前記過失相殺による三〇パーセントの減額をすると金一、一八九万〇、九〇〇円となる。

6  慰藉料 金三八五万円

叙上認定の本件交通事故の態様、受傷の程度、内容、治療の経過、期間、後遺症の程度、内容、そして原告が長年にわたり築き上げて来た本件養鶏業が極めて大きな打撃を被つたことなど本件口頭弁論に顕われた諸般の事情を斟酌すると、本件交通事故により原告が被つた精神的苦痛を慰藉するのに相当な損害賠償額は金五五〇万円を下らないと認められ、右金員に前記過失相殺による三〇パーセントの減額をすると、金三八五万円となる。

7  弁護士費用 金九〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び謝金として相当額の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、事件の難易度及び前記損害額に鑑み、弁護士費用は金一三〇万円をもつて、本件交通事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、右金員に前記過失相殺による減額をすると金九〇万円となる。

8  損害の填補 金五一四万五、六一四円

原告が自動車損害賠償責任保険金金四一八万円及び被告からの任意弁済金金九六万四、六一四円の支払を受けたことは、当事者間に争いがない。

9  原告車の損害 金四五万五、〇〇〇円

叙上認定の事実及び証人伊藤時の証言(第一回)及びこれにより真正に成立したと認められる甲第六号証によれば、原告は本件交通事故により所有する原告車を破損された結果、その修理費用として訴外トヨタカローラ京葉株式会社旭営業所に対し金四五万五、〇〇〇円の支払を余儀なくされたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

右金員に前記過失相殺による三〇パーセントの減額をすると金三一万八、五〇〇円となる。

10  合計

以上に認定した人身損害の内容をなす1ないし7の各損害項目の金額を合算した金一、八八五万一、五六五円から右8の損害の填補金五一四万五、六一四円を控除した金一、三七〇万五、九五一円及び右10の物的損害金三一万八、五〇〇円を合計すると金一、四〇二万四、四五一円となる。

六  以上の次第であるから、原告の被告に対する本件不法行為に基づく損害賠償債権金一、四〇二万四、四五一円と内弁護士費用相当の損害金九〇万円を除いた金一、三一二万四、四五一円に対する本件不法行為日の翌日である昭和五〇年二月二七日から並びに内金九〇万円に対する本裁判額定の日の翌日から支払ずみまでそれぞれ民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田龍樹)

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